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経済産業大臣 年頭所感

令和6年 元旦
経済産業大臣 齋藤 健

<はじめに>

 令和6年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。

 遡ること40年前、通商産業政策を命懸けでやろう、そういう思いでこの門をくぐった時の初心をもう一度思い起こし、足もとの厳しい状況の中においても、我が国が直面する様々な重要課題を解決すべく、緊張感をもって取り組んでいかねばならないと決意を新たにしているところです。

<(1)我が国経済が迎える「潮目の変化」>

 我が国経済には、経済界の皆様のご尽力もあり、100兆円規模に達しつつある国内投資、3.5%を超える賃上げ、双方において実に30年ぶりの高水準を示しているところであり、成長と改革の方向に向かう「潮目の変化」ともいうべき兆しが生じています。

 これは、長らく停滞していた日本経済を反転させ、縮み思考、デフレマインドを変える千載一遇のチャンスでもあります。この流れを確実なものにし、日本経済の持続的な成長を実現するためにも、経済産業省として、大胆な産業政策を講じていきます。

 特に、GX、DXといった社会課題解決分野を成長の源泉となる戦略分野と捉え、官も一歩前に出たうえで大規模、長期、計画的に取り組んでいくことを通じ、日本経済を成長軌道に乗せていきたいと思います。

 本年は、いわば、そうした日本経済の新局面、新たなステージの幕開けです。その実現のためにも、昨年の臨時国会で成立した補正予算を速やかに執行し、足元の危機への対応に加え、国内投資の加速と成長力強化を大胆に後押ししていきます。

<(2)大阪・関西万博の成功に向けて>

 開催まで残すところあと一年となった大阪・関西万博は、ポストコロナの新たな世界、次世代技術・社会システムが形作る未来社会の風景観を示し、我が国のイノベーションの可能性を世界に発信していく場です。

 新型コロナを経験し、ウクライナ情勢や中東情勢の緊迫感が続く中、世界では改めて「いのち」の重みについて強く意識されています。こうした中で、世界の平和と繁栄に繋がるよう、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ、世界の叡智を集約し、イノベーションにより諸課題を乗り越え、輝く未来を切り開く道筋を示していく、これが今回の万博を通じて実現したいミッションです。

 それができるのは、平和国家として歩んできた歴史とイノベーションを起こす力を有する日本であると、私はそのように思います。

 万博会場の中では、例えば、アンドロイドロボットが「いのち」について語りかける交流体験や、iPS細胞から作成した心筋シート等の再生医療、空飛ぶクルマ、多言語翻訳技術の活用など、イノベーションの発露ともいうべき魅力的なコンテンツが数多く予定されています。

 世界の知恵を結集し、未来を担う子供たちを含め、世界中から来訪する様々な人達が刺激を与え合い、「いのち輝く未来社会」に向けて挑戦する気持ちを育んでいくような、参加・体験・行動できる万博にしていきたい。そうした思いの下、残り450日余りの準備期間を全力投球していきます。

<(3)GXの実現、物価高・エネルギー高への対策>

 昨年末、成長志向型カーボンプライシング構想を具体化する中で、エネルギー分野、くらし分野、産業分野それぞれにおいて分野別投資戦略を取りまとめました。これら各分野の戦略に基づき、20兆円規模のGX経済移行債を活用した投資促進策を実行していきます。

 本年は、GX実現に向けた具体化を進めるとともに、エネルギー基本計画の見直しに向けた議論を行う重要な年です。これまで緻密に積み重ねられてきた議論を引き継ぎつつ、本質的かつ重厚な議論を進めます。

 また、エネルギーの安定供給や脱炭素社会の実現の重要性に鑑み、LNGや重要鉱物の安定供給の確保や、規制・支援一体型の考え方の下における水素等のサプライチェーン構築のための、既存原燃料との価格差に着目した支援や拠点整備支援等の法制度の整備、火力発電所、石油精製、製鉄、セメントなどCO2の排出削減が困難な産業に必要なCCSの法制度を含めた事業環境整備等の総合的な取組を通じ、エネルギー危機に備えた対策とGXの実現を同時に進めます。

 併せて、地域と共生した再生可能エネルギーの最大限導入、送電網の整備推進や蓄電池等の導入、安全最優先での原発再稼働や運転期間の延長、次世代革新炉の開発・建設等に取り組み、エネルギーの安定供給を恒久的に実現するためのあらゆる方策について検討していきます。

 さらに、足元のエネルギー高への対策として、燃料油価格、電気・ガス料金にかかる激変緩和措置を本年春まで継続するとともに、省エネ型の経済・社会構造への転換を実現すべく、企業・家庭向けの支援を実施します。

 

<(4)賃上げ、中堅・中小企業政策>

 経済成長の原動力は、他ならぬ人材です。足元の潮目の変化を持続的な動きにし、賃上げを継続的なものにしていく必要があります。日本経済の屋台骨である中小企業・小規模事業者が、物価高に負けない賃上げを実現できるよう、そのカギとなる価格転嫁対策を、政府を挙げて徹底的に推進するとともに、中堅企業を含めた、省力化対策等の生産性向上を強力に後押ししていきます。

 地域における中堅・中小企業の成長・収益力の強化も重要です。令和6年度の税制改正において、地域未来投資促進税制・賃上げ促進税制における中堅企業枠の創設や、中堅・中小グループ化税制の創設といった措置も講じることとしており、成長意欲の高い中堅企業による大規模な投資やグループ一体となった収益力の向上、さらには地域における持続的な賃上げを通じ、地域経済の活性化につなげていきます。

 同時に、厳しい事業環境の中にある中小企業に対し、事業承継、事業再生、廃業等にかかる相談体制の強化も行っていきます。インボイス制度にも適応できるよう、引き続ききめ細かな支援を展開していきます。

 深刻な人手不足や、本年4月から適用されるトラックドライバーの時間外労働上限規制等により、輸送力の不足が懸念される「物流の2024年問題」の解決に向け、荷主企業の物流施設の自動化、機械化を含むあらゆる支援策等を実施していきます。

<(5)イノベーション、成長投資>

 人材は、同時に、イノベーションの源泉でもあります。「人への投資」は「未来への投資」。経済産業省としては、キャリア相談、リスキリング、転職までを引き続き一体的に支援し、政府全体で、正規・非正規、社内・転職問わずキャリアアップできる環境を整備していきます。

 

 イノベーションは、持続的な経済成長に不可欠です。国内のイノベーション推進に向け、破壊的イノベーションの創出を目指した研究開発や、AIの開発力強化、中小企業等における導入促進等に対し、強力な支援を行っていきます。

 また、イノベーションを支えるスタートアップのグローバル展開や人材育成等に対し幅広い支援を行います。

 こうしたイノベーションの活性化、そして強靱で柔軟な経済の構築のためには、国内において成長につながる投資を促すべく、一歩踏み込んで政策を進めることが重要です。こうした観点から、昨年末とりまとめた国内投資促進パッケージに基づき、国として重要な分野を中心に、国内投資の喚起をさらに促進していきます。

 半導体や蓄電池、AI、量子、宇宙等、今後の経済成長の鍵となる戦略分野については、国内投資、研究開発、人材育成等をさらに支援していくとともに、これらの重要物資にかかる国内製造基盤の強化、研究開発等を通じたサプライチェーン強靱化支援にも取り組みます。

 また、ドローンや自動運転等のデジタルの恩恵を全国に行き渡らせるべく、共通規格に準拠したハード・ソフト・ルールのデジタル時代のインフラであるデジタルライフラインの全国的な整備や、サイバーセキュリティの確保に向けた環境整備を進めてまいります。

<(6)対外経済政策>

 ロシアによるウクライナ侵略、大国間競争の激化、深刻化する中東情勢など、我が国を取り巻く外的環境は日に日に厳しさを増しています。我が国の経済社会、サプライチェーンにも大きな影響を及ぼす中、経済安全保障の重要性も益々高まっています。そのような中で、経済安全保障を確保しつつ自由で公正な貿易体制を発展させる、という難しい舵取りをしなければなりません。

 自由で公正な経済秩序の維持・強化に向けても、WTOなどの多国間の枠組みや
CPTPP等の経済連携協定、G7などの有志国枠組みを活用することが引き続き極めて重要です。

 昨年のG7では、我が国が議長国を務め、経済産業省として、気候・エネルギー・環境、貿易、デジタル・技術の3つの閣僚会合の議論を主導してきました。直近の
G7デジタル・技術大臣会合参加では、AIについてイノベーションの促進と規律のバランス確保の重要性を強調しています。こうした議長国年のレガシーは、本年以降にも引き継いでいくことが重要です。これらに加え、G7広島サミットで合意された、グローバルサウスとの連携強化の推進も引き続き進めていきます。特に、有志国と連携しながら、強靱で信頼性のあるサプライチェーンの構築、経済的威圧や非市場的措置への対応などに取り組むことが重要です。G7広島サミットや貿易大臣会合でも、これらについてメンバー国が認識を共有できたのは大きな成果であり、それをもとにより多くの国に取組を広げていきます。

 昨年11月には、日米経済版「2+2」、IPEFといった枠組みを通じて、日米や同志国で共有する課題に対し共同して立ち向かっていくことにも合意しました。また、供給側の政策に加えて、環境などの持続可能性や信頼性等の要件を満たす需要側へのアプローチを含めた政策も行う必要があります。GX・DXといった様々な重要政策を実施する際に、こうした考え方も織り込みながら実施できないか検討しつつ、同志国連携の具体的な取組と合わせて、グローバルに公正な市場、事業環境の整備に取り組みます。

 最後に、昨年12月には、初のアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳会合も開催して、各国の首脳と本構想の理念を共有し、首脳共同声明を採択しました。日ASEANの次の半世紀に向けて、共に未来を担う産業を創る、「共創」をキーワードに、産業協力強化に向けた具体的な取組を推進します。

<(7)福島復興、文化芸術>

 福島復興と東京電力福島第一原子力発電所の廃炉・処理水対策は、引き続き経済産業省の最重要課題です。

 昨年8月、福島第一原発の廃炉に向けた大きな一歩となるALPS処理水の海洋放出を開始し、これまで3回の海洋放出を行ってきていますが、引き続き、ALPS処理水の安全性・透明性の確保、風評対策・なりわい継続支援に全力で取り組みます。特に漁業者の皆様が安心して漁業を継続できるよう、輸出減が顕著な品目の販路拡大や加工体制強化、加工業者等への資金繰り支援等を実施しているところ、今後も適時適切に、迅速に、着実に実行していきます。併せて、着実な廃炉の進展に向け、燃料デブリの取り出し等のための技術的難易度の高い研究開発も支援します。

 併せて、帰還困難区域の避難指示解除に向けた取組や、事業・なりわいの再建、新産業創出、交流人口の拡大、芸術文化を通じた新たな魅力づくりなどを通じ、被災地の復興を着実に推進します。

 さらに、福島以外の地域においても、文化芸術コンテンツ産業等の海外展開やロケ誘致によるインバウンド需要の取込みを進め、地域経済の活性化、地域における文化の再創造を支援します。

 こうした取組を通じ、文化の面でも日本を世界の中心にしていきます。

<おわりに>

 本年は、十干十二支の「甲辰(きのえたつ)」であり、大きな出来事が起こると予想され、これまでの努力が実って夢が叶いやすい年と言われております。直近の甲辰(1964年)には、東京五輪の開催や東海道新幹線の開通など、戦後復興の象徴ともいうべき大事業が成し遂げられてきました。今こそ、昨年までに積み上げてきた努力を形にし、日本経済がさらなる躍進を遂げる時です。私自身も、大きな時代の転換点にあって引き継いだバトンをよりよい形で繋ぐべく、使命を果たしてまいります。本年が日本経済の新たなステージの幕開けとなるよう、皆様と共に新しい一歩を踏み出していければと思います。

 

本年も皆様のより一層の御理解と御支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

令和6年 元旦

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