|
優秀論文
急がれる中小企業のワーク・ライフ・バランス
経営アナリスト 松浦なつひ
1.はじめに
私の所属する(株)会社業務研究所では、創業の昭和23年から今日まで、様々な規模の企業が健全な成長を遂げるための経営支援をさせて頂いております。昨今は特に、日本の社会において時代を追うごとにますますその役割が重要になっていると確信している中堅・中小企業に力を注いでおります。
経営支援の理念として、「強くて良い」会社を作り上げることを掲げています。「強い」とは、事業が成長する市場に入っていること。ローコスト体質で、経営を行っていること。「良い」とは、働き甲斐のある職場を提供していること。そして、人々の暮らしに役立つよう、改善・提案をしていることです。今、国を挙げて推進しているワーク・ライフ・バランス(「仕事と生活の調和」内閣府)は、基本的にこの「強くて良い」の考えの中に取り組まれています。
2.クライアントの現状
@順調な企業と苦戦している企業
弊所のクライアントを見ますと、順調に業績が推移している企業のグループと、苦戦しているグループに分かれています。順調なグループは、新市場に参入し、お客様が認めて下さる製・商品を提供できています。一方、苦戦しているグループは、衰退または問題山積みの従来の市場から抜け出せず、その上、製・商品の付加価値がお客様に認められず、「売り上げ」が十分立たない、いわば「売り下げ」状態です。
A共通する傾向
このいずれのグループにも、共通していることがあります。それは、会社が働く人の「生活の時間」を削って、「仕事」へ注入してきたことです。それでも、激しい他社との競争で、各社がその注入に対するだけの十分な成果が出ているとは言えません。そこに、震災と欧米の経済危機による円高が加わりました。
B不具合の改善・改革が必要
今、企業に求められていることは、成長と付加価値高獲得のために、自社の不具合を改善・改革することです。そのためには、企業は、働く人の力をさらに仕事に注入する必要が生じています。
C働く人の傾向
しかし、働く人は、「仕事以外の生活」ですでにやるべき事を抱えており、さらに社内労働を要求するのは、難しい状況です。弊所の商業関連のクライアントへ実施したアンケート調査(対象:幹部、パート従業員のリーダー。2011.11実施)では、「プライベートでも、やりたいこと・やらなければならないことがあるか」という設問に対し、「ある」と回答した人が9割以上。そのための時間や余裕を「少し欲しい」「大変欲しい」と合わせると、7割以上の人が思っています。さらに、「プライベートを考えると、転職を考える」人は5割近くにも上っていました。このような、仕事以外の生活を重視する傾向は、全体的に以前にも増して強まっています。
D企業が抱えるダブル課題
この客観的状況から、企業としては、これ以上の働く人の生活に無理は求められませんので、自社の不具合の改善・改革を行うためには、ワーク・ライフ・バランスの課題も同時解決することが求められています。
3.改善・改革と、ワーク・ライフ・バランスの同時解決策
@企業と働く人との「共通目標」の設定
働く人のさらなる協力を求めるには、「働き甲斐」と「付加価値付け」を、働く人と企業との「共通目標」にすることが1つのポイントです(P3「働き甲斐の8要素」「付加価値高の図」参照。次ページで説明。)。
「働き甲斐」の「共通目標」を、働く人にとって最も関心が高い「私生活の時間を多くする」ことが上げられます。その改善・改革の第1ステップとして「残業時間は1時間を限度とする」「特定の人(または部署)に残業時間を集中させない」などと目標を設定します。
「付加価値付け」についても、お客様が自社の製・商品やサービス等に何を求めているかをつかみ、それを明確に「共通目標」と設定します。例えば、「自社の製品○○に△△素材を使うことで、お客様の装着時間を7分短縮させる。」などです。
これら目標の成果を獲得するために、次々にその達成方法と仕組等を打ち出すことになります。
A企業と働く人の「共通意識」の共有
次のポイントは、これらの目標を達成しようという働く人の「共通意識」を、企業と共有することです。各企業の風土から出る「コトを前向きに進めて行こう」という働く人の気持ちを引き出すことが、重要だと思います。中堅・中小企業のオーナー経営者は、企業への思いや、今日までの経験など大変個性的な方が多く、それが企業としての独特な風土を醸し出しているからです。「共通意識」を引き出す方法に、アンケート調査があります(下図「働き甲斐と付加価値高の関連付けを持たせる、設問の流れ(例)」参照)。
B「共通意識」と「問題意識」の共有化のためのアンケート調査
弊所では、「働き甲斐」と「付加価値高獲得」を最も重要視しています。以下の「働き甲斐の8要素」「付加価値高の図」を示しながら、これを両立させることがオーナー経営者の使命だとご説明しています。「共通意識」を引き出すアンケートの設問は、これを踏まえたもので、自分達の抱える問題を気づかせる「問題意識」の共有化の仕掛けもしています。

@働く人は、自分の個人的生活をどうしたいと思っているか。
↓
A働く人は、社会の動きをどう見ているか。
↓
B自社の業界の今後をどう見ているか。
↓
Cお客様の求めているものは何か。
↓
D自社はそれに、どれだけ答えているか。選択基準に合って
いるのか。
↓
E自分は与えられた役割を果たしているのか。
↓
F自分の役割と、経営理念、経営方針、経営計画、
経営目標との関連性が理解できているか。
↓
G自分の給料と、付加価値高の図の「人件費」の関係が
理解できているか。
↓
H仕事以外の生活時間を確保することと、生産性向上が
関係あることが理解できているか。
Cワーク・ライフ・バランスと賃金との関連性
アンケートでは、仕事以外の生活時間から自分達の賃金も考えます。例えば、土木関連の事業で、残業が多く、働く人が慢性の睡眠不足状態とします。このままの状態が続くと、ミスや怪我で生産性が低くなり、良質のサービスが発注先のお客様に提供できなくなります。結果、お客様は他社へと流れてしまいます。「受注件数×1件当たり受注高=工事売上高」ですから、受注件数が減れば売上高が減少し、付加価値高(粗利)も減少します。粗利から人件費、経費、利益へと所定の比率で配分されますので、粗利が減少した場合、働く人の賃金もそれに比例して下がることもあるのです。これが認識できず、長い不景気のせいだとして予算の未達が続く負け癖がつくと、年度末にも何も感じない「予算未達不感症群」にかかってしまう企業もありますので、要注意です。
また、働く人自身は、家庭や仕事の以外の生活でも、家事や雑用を効率化して自分の時間を確保するワーク・ライフ・バランスのマネジメントを意識することも必要です。
D改善・改革の仕組み化
以上のようにして、ワーク・ライフ・バランスの目標を確認し、その問題解決と実践目標と実践方法を学習して、改善(特に競合他社よりも劣っている場合、そのマイナスの状態からゼロの状態へ引き上げること)と改革(レベルの低い状態を高い状態へ引き上げること。新しい局面に立ち入ることなど。)を同時に実行することが良いと思います。中小企業の強みは、働く人の事情が把握しやすく、即、トップダウンで実行に移せることです。働く人に対しても、お客様に対しても、その場限りの対応ではなく「仕組化」することが重要です。
4.まとめ
日本は国内外の影響を受け、激動の最中にあると言われていますが、この激動している状態が当り前となると予測されます。働く人に確実に浸透してきている、個人生活の充実という価値観は、後戻りできない流れでしょう。日本と海外という捉え方から、世界の中の日本というように立ち位置が変わりつつある今、この価値観に沿う経営が求められるでしょう。企業が、海外進出しても、国内で営むにせよ、他社との競争に優位に立つためには、一刻も速く「強さ」と「良さ」を同時に進めていくことに取組む必要があるでしょう。
時間価値重視のCRM
IPO・内部統制実務士、中小企業支援アドバイザー、事業再生アドバイザー
武捨 皓介

多くの消費者は、仕事量の増加あるいは仕事以外の事務的な時間が増加したことにより、結果、労働時間を延ばさざるを得ない状況に追い込まれている。その上、給与が上がらず将来が不安で家計が縮小されているので、物を買う際は慎重になりますます時間が不足してきている。そこで、顧客が自社で費やす時間を注意深く調査、分析し、その上で製品やサービスの時間コストの低減または時間価値の向上を図る企業が持続的競争優位を構築できる。そんな消費者の費やす時間価値分析の重要性が増す中、企業経営のお手伝いをする際、よく感じるのは「この時間価値に論点がおかれた営業改革が進んでいない」ということである。
従来の営業活動である活動結果のみを管理し、活動が個人任せで現場のインテリジェンスである中身・過程がブラックボックス化にある状態を脱却していないことがうかがえる。組織的に商品・サービスのライフサイクルによるターゲットの選定、実践的プロセス管理やシステム間の連携強化といったCRMの必要性、またCRMの考え方がまだまだ浸透していないようである。一般的には、売上の拡大のために社長は「顧客数を増やせ!」「若手営業マンを教育しろ!」「アポを取って足を運べ!」など思いつき指示を行うために本質的な問題の解決とはならない。中には市場シェア増加に向けた「獲得率」と「開拓率」といった切り口や、「顧客カバレッジの増加」と「1社当り取引の増加」といった切り口で営業活動を展開している企業もあるようだ。ここでは「One to One Marketingの生涯価値」の切り口で、自社の状況を当てはめて、比較・推移を把握することで何が足りないのか、何をするべきなのかの営業活動の状況・方向性を認識することをお勧めする。
「One to One Marketingの生涯価値」

「One to One Marketingの生涯価値」を基にしたマーケティングのパーチェスファネルの概念では、認知→考慮→選考→試行→散発的・定期的・安定的顧客のプロセスを踏む訳であるが、最後の過程にある試行購買者をリピート顧客に定着させるためには、顧客向けイベント・プロモーション、リレーションシップ・マーケティング、CRMといった手法が挙げられる。以下、時間価値を念頭においたCRMについて述べる。CRMは効果的な顧客獲得のノウハウと優良顧客の維持、組織内の顧客情報の一元管理と共有を基礎にして、望ましい顧客関係を作り出し、維持する活動であることから、営業・企画・サービス・開発など直接部門・間接部門を問わず顧客に関わる部門全てが対象になり、引き合い・受注・クレーム・要望など「顧客」をキーに全ての情報をITを活用し得られるデータを読み込み、分類・結合、管理し、顧客情報分析に基づく継続的な対話でありインターネットによるスピードあるサービス提供や同時的対話で顧客満足を向上していく。結果、顧客の需要の理解、関係の評価、顧客価値の最大化を図り、利益率向上をもたらす。
<論文:中略>
ところが、実際の現場では5Wの観点から管理することには注力しているものの、どのように伝えるかという点になると疎かになりがちで、どうも顧客にうまく伝えられないという課題が見えてくる。重要なことは最終的に顧客にどのように感じてもらえるかである。どう伝えるかではなく、どう伝わったかである。顧客への伝わり方によって、顧客の購買行動、商品に対するロイヤリティは大きく影響を受ける。従って、今後は伝え方についても、十分時間をとって検討することが望まれる。この質向上サイクルにおいては、営業員一人当たり訪問数に限度がある中、このような計画的、集中的に活動すべき顧客を客観的に選定することに赴きをおく。選定した顧客の個別認識と最適なケアを行うことにより、既存の顧客情報を統合顧客データベースにし、顧客情報の共有による組織横断的な対応が不可欠となる。これまで商品・サービス、チャネルの多様化の過程において、それぞれを管理する情報システムが各業務においてバラバラに作られ、顧客情報がバラバラに生成・蓄積・管理されるようになっていた。しかも本来同一の人物である顧客がシステムごとに別々のIDで管理されているため、同一人物であることすら認識できないという状況も発生している。このような状況では、電話を受けるコールセンターのオペレーターも、顧客へのアプローチを考え直接訪問する営業も、顧客と対話する上で、あるいは対話を検討する上で、必要となる正確な情報を必要なタイミングで手に入れることは極めて難しい。だからこそ、各システムに分散した顧客情報を顧客一意に紐付け、整理・統合した統合顧客情報基盤が必要とされる。この基盤を用い組織横断的な対応を構築するために、まず5W1Hの観点から営業プロセスを業種ごとに分解、良い販売手法を規定し、全社員に理解させ、プロセスごとに何が必要か、何が問題かのコミュニケーションの基盤システムを構築する。さらに、実際の営業活動を3つの手法に展開する。
<提案営業> 確実な営業プロセスを踏むことで、ユーザーの関心ごとを着実に掴み、解決策を提案する。営業プロセスを踏むことで、常に目的意識を持った活動を実践する。
<組織営業> 営業プロセス経過によるステータスごとの確認、営業プロセスごとの確認事項の記録、上司・関係者からのアドバイス、自由なメッセージの交換。営業共有プロセスに基づき、組織で問題解決にあたる。
<継続営業> 過去のプロセス、現在の進行が明確の状態で担当移管される。顧客ごとに保存される営業履歴は取り組みの見直し時、最高の指針となる。
この3つの展開により、顧客にとって望ましい購買行動であるその時点で正確で必要十分な情報に基づいて最も自分にふさわしい製品、サービスを過去の選択に縛られずに購買する。結果として、継続的取引を行うときには継続すると得られるメリットを享受する。現在の消費者の購買行動は商品を性能だけを見て購入を決めることはなく、インターネットによる商品の評判、店頭における接客対応の印象、商品の使い方の提案、アフターサービスの充実度合いなど、トータルな側面を見てその企業の商品を選択する傾向にあり、商品の選択時間コストや使用時間コストの低減を図る一方、使用時における時間価値向上を求める。
<論文:中略>
ここで事前に検討した提供価値を元に、応えるべき要望を選別、優先順位付けすることで施策の根底を流れる一貫性を保ちつつ、施策同士の相乗効果も期待することができる。CRMの着眼点は、顧客の囲い込みが目的ではなく、顧客属性や購買履歴のデータベースをもとに、継続的取引、アフターマーケット、アップセル、クロスセルに結びつけようとするものである。スイッチングコストを課すなど、企業は囲い込み心理がはたらきやすいが、これは結果的に良好な顧客関係を生まないことがある。
多種多様な顧客のニーズに対応するためには、さまざまな顧客接点チャネルを用意し、顧客との接点を記録に残すことが必要となるが、各業務が求める記録にはシステムの可用性(稼働していて欲しい時間)とそれを担保するシステムの信頼性(故障しにくい)、保守性(故障からの容易なリカバリ)に対する要求度にかなりの違いがある。また各業務の統合顧客情報基盤に対する要求にも大きな違いがある。
その違いを考慮したシステムを構築し、全社横断的な顧客サポートを適時適材適所に目指していく。 以上
武捨 皓介/
略歴:外資戦略系コンサルティングファームでは経営戦略、マーケティング戦略、新規事業戦略、内部統制など上流プロジェクトのマネージャとして従事。戦略構築、企業変革の実施支援、新規事業設立支援、M&Aなど戦略立案から現場改善まで幅広い分野で活躍中。
役員御寄稿 2009年のIPOをめぐる雑感
OFFICEモリシマ
IPOアドバイザー 森島 康雄
(協会監事:経営調査士・経営アナリスト)
(注)HP掲載文は省略しております。全文は会報掲載記事を参照ください。
1.諸論
昨年の国内株式市場は日経平均が1月5日の9,043円を12月末終値が10,546円と3年ぶりに上回ったものの、世界的な金融危機による景気悪化が未だ回復せず小幅高にとどまった。しかし、IPO(新規株式公開)は19社と31年ぶりに20社を下回った。加えて、経営破綻による上場廃止だけでなく、上場子会社の完全子会社化、MBO(経営陣による自社株株買取)等による自主的な上場廃止も相次いだ。上場によるメリットよりデメリットの方が大きいとの判断によるもと推測される。この現象はわが国の株式市場・上場意義について「原点に戻り考え直さねばならない時に来た」と言える。奇しくもマザーズ開設から10年を迎えた今、次世代の経済価値を拡大させていくであろう、上場志向のベンチャー企業に直接金融という資本を付け成長させていく新興市場のあり方が有名無実化している現状を打破せねばならない。
2.マーケットの概況と激減したIPO
円ドルレートは―米国経済の回復の遅れからドルが売られる展開が続き11月には一時84円80銭を付けるなど14年ぶりの円高水準となり、この急速に進んだ円高により外需依存度の高い日本企業の収益悪化が嫌気され株価上昇の妨げになったと思われる。
IPOの現場もまた惨憺たるものとなった。
(− 中略 ―)
激減の要因は何か。経済環境の悪化により企業の収益が下振れ、株式市場が本格回復せず公募価格が低く設定される懸念から上場を控える動きも一因ではあるが、「内部統制」構築や企業業績の「四半期開示」体制等の上場へ向けた社内整備に関する費用の増大、さらには新興市場における「上場審査及び証券会社の引受審査等における実質審査の強化」などがあげられる。
反面で、ハードルが高くなったことが功を奏したのか、新規上場企業の初値騰落率初値騰落率(公募価格に対する初値の割合)は平均35%で前年の16.5%から18.9ポイント上昇した。予想利益ベースの公募価格PERも平均13.9と前年の11.4を2.5ポイント上昇した。
3.過去最高額の公募増資
新規上場が低迷する中、上場企業の株式発行による資金調達は活発で、公募増資は約7兆円約7兆円と1999年の4兆716億円を大きく上回り過去最高となった。目立ったのは大手都銀3行をはじめ大手証券と老舗大手企業で、三菱UFJグループは1兆円超を集めた。日本郵船が40年ぶり、東芝が28年ぶり日立も27年ぶりと老舗も目立った。目的は、金融機関の国際的な資本改善を迫る規制強化や金融危機で傷んだ財政基盤の修復を図るものだ。
この現象は当該企業の発行済み株数が大幅に増加し一株当たりの利益・価値の希釈化が進むことはさておき、本来の株式市場の直接金融の場として機能を回復できたのは喜ばしいことであるといえよう。だが問題は、この資本調達ができたのが一部のメジャーだけで、大半の上場企業は上場のメリット享受よりデメリットを感じ始めていることにある。
<4.MBOの続出・上場の魅力の減退
その表れがMBO等の続出である。09年の上場廃止は77社で、これもバブル崩壊後の02年以来の高水準。SFCGや日本綜合土地、ロプロ等の経営破たんによるものもあるが、経営陣によるMBOによる株式の非公開化も目立った。ここ数年増加傾向にあり、09年はユニバーサルスタジオを運営する潟ー・エス・ジェイ、婦人服チェーンの潟潟Iチェーンホールディングなど大型企業もMBOで市場を退出した。年末には薬のコーワグループの中核である興和紡績鰍烽lBO実施を決めた。
MBOは敵対的買収からの企業防衛の手段としてクローズアップされて以来、実施する企業が増加し、その目的は上場維持コストからの解放、経営に対する短期間での成果要求の排除、グループ子会社からの独立、企業売却等多様である。
(− 中略 ―)
5.リスクを意識しすぎた委縮
新規上場の激減は企業収益の悪化や上場の魅力の減退もさることながら、上場までの道のりの険しさ、ハードルの問題が大きい。審査における形式基準は従来とさほど変わらないが、当局による実質審査における締め付けが強すぎるのか?
マザーズが誕生以来、昨年で10年を迎えた。この10年でわが国の新興市場では1200社近くの上場企業が誕生した。相次ぐ業績の下方修正や虚偽記載、反社会勢力とのつながり等不祥事も招き、投資家からの信頼度も失った、問題のある企業が上場したのは、取引所間の新規上場獲得競争が背景にあり、上場審査が甘かった等々の批判が続出(当事者の一人である筆者としては、審査に甘さはなかったと確信してはいるが)し、市場の統合話も真実味を帯びてきた。その善し悪しについてはまたの機会にしたいが、市場統合は業界関係者の利便性もさることながら上場主体である企業の選択肢という点からの見方も必要だという点を指摘しておきたい。
(− 中略 ―)
不祥事はあってはならないが、慎重を期するあまり上場の道を閉ざすことになってしまうのは避けなければならない。「角をためて牛を殺すような規制・指導はあってはならない。」特に新興市場本来のあるべき姿は明日の日本を支えるであろう「これからの企業」(あえてベンチャー企業とは呼ばない)に資本を注入し、育て上げることに主眼が置かれるべきではないか。市中の金融機関から資金調達できない時にこそ、将来を見越した投資家の力が必要なのである。
6.投資の自己責任の徹底
その意味では株式投資は「自己責任が原則」である。JALの投資家も然りだ。一時の新規上場ブーム時は、まさにブームに乗っての株式投資で、目論見書で企業内容・将来性を吟味した投資家がいかほどいたのであろうか。この点からも自己責任の姿勢を強く示し育てなければならない。株価が下がるとなぜ上場させたかと責任転嫁する投資家の現状。上場に携わる者の職責は重く責任逃れは許されないが、投資家保護の名のもとに打ち出される施策が投資家のためにならず、コストアップにつながるだけのものでは問題大である。
(― 後 略 ―)
現代企業会計とマネジメントに関する緒論
日本経営調査士協会 経営調査士 嶋津和明
パナソニックCCシステムコンサルティング株式会社
(コンサルティング事業2部)
本稿では現代日本の企業会計とマネジメントとの関連について整理した上で、今後の展望について意見を述べたいと思います。
最初に現在および今後の日本の企業会計とマネジメントの関係を考える上で欠かす事のできない以下のポイントについて整理しておきたいと思います。
一.国際財務報告基準(IFRS)の導入
二.ファイナンス重視(財務会計)からマネジメント重視(管理会計)へ
三.ITの果たす役割とその活用
一.国際財務報告基準の導入
二〇〇七年八月の国際会計基準審議会(IASB)と企業会計基準委員会(ASBJ)との東京合意により、二〇一一年六月を目標に日本の会計基準と国際財務報告基準(IFRS)のコンバージェンスが合意されました。今期(二〇〇九年三月期)における「棚卸資産の低価法」や「四半期財務諸表」の導入はコンバージェンスの一環ですが、EUが国際財務報告基準(IFRS)を導入し、二〇〇八年八月には米国証券取引委員会(SEC)が米国上場企業によるIFRS適用を明確にした事により会計基準が国際的に収斂しつつあり、日本もこの流れに取り残されるわけにはいかなくなった、というのが現在の状況です。今後はコンバージェンスではなくIFRSを適用する方向での検討が進みます。
このようなビジネス・資本市場・会計基準のグローバル化の流れと、四半期開示、決算早期化、内部統制などへの対応は、単体重視から連結重視へと制度的にはシフトしたとはいえ、欧米と比較するとまだまだ「連結経営」という観点では遅れをとっている日本企業への影響はかなり大きなものとなっており、それは今後も続く見込みです。
二.ファイナンス重視(財務会計)からマネジメント重視(管理会計)
今後日本の企業会計を考える上で欠かせない視点、そして経理・財務部門に求められる役割が、管理会計・連結経営といったマネジメントの意思決定に役立つ情報発信です。
IFRS対応においても有価証券報告書で開示するセグメント情報を、従来の事業の種類別、所在地別といった制度で定められた切り口での区分から、実際に経営者がマネジメントにおいて意思決定に使用する方法に沿った区分による(マネジメント・アプローチ)開示を要求されます。この変化が意味するところは企業がどのような情報で意思決定を行っているか、それが結果に繋がっているかがオープンになる、即ちマネジメント手法も企業の評価基準として重要視されるような制度になる、という事だと言えます。
本稿を書いている時点で、消費・雇用は冷え込み、株価の下落、円高と世界恐慌が囁かれるくらいの経済環境の悪化が進んでいます。拠点を海外に持たない企業においても原材料価格の高騰や、原油高など様々な要因でグローバルな影響を受けてしまうのが現代のビジネス環境です。そういった中でいかに業績に影響を与える情報を素早くキャッチし、アクションをおこせるか、またそもそもそういった影響を受けないビジネスを行うかなど、マネジメントが必要とする情報と情報の鮮度(スピード)は一層重要なものとなります。
またそこには連結経営、単体管理会計から連結ベースでの管理会計という意識を欧米並みに浸透させる必要があります。
三.ITの果たす役割とその活用
前項で情報の鮮度という事を述べましたが、要するに多くの情報を多くの拠点から収集し、加工・分析したものをいかに早く経営層に開示するか、という点においてITとIT部門の役割は重要です。現在の日本企業において制度上の連結決算は四半期でやっておりますし、月次ベースで連結実績を把握している企業も多いと思われますが、世界中に拠点がある巨大な企業グループの情報であっても、技術的には瞬時に世界中の情報を集約して経営者が見る事も可能なくらいITは進歩しています。そこから考えるとITを経営管理にフルに活用している企業と、ほとんど手作業に近い状態の企業とでは経営判断に必要な情報量やスピードの差がいかほどかは想像に易いでしょう。同じ情報を経営者に届くのに1ヶ月以上も差が発生するケースもあると思われます。今後はIT活用の差が企業経営の質とスピードの差に繋がってくる、と言ってもいいでしょう。
四.総 括
本稿の要旨と致しましては、
(一)企業会計は今後グローバル対応を余儀なくされ、その対応に追われる。
(二)マネジメントに役立つ各社独自の連結ベースの管理会計が求められる。
(三)制度会計・管理会計いずれもスピードが重視される。
(四)ITの活用が経営スピードに直結する。
という点であります。
企業における経理・財務部門の役割は今後変化していく必要があるのではないかと思います。それはどのような変化かと申しますと、従来の決算と開示、税務のような制度対応という外部要求を処理する役割から、経営層からのニーズへの対応、また、自ら有益な情報を経営者に発信していくという内部要求に応える役割へと変っていくという事です。またそれらを効率的に実現し、サポートする存在として経理・財務部門の重要性の高まりと共に、IT部門の役割も非常に重要になります。
今後数年は日本企業にとって大きな転換期となるはずです。 企業の生き残りには、経理・財務・ITといった部門が今よりさらにマネジメントに対する役割を強化し、機能する必要があります。そのためにはトップダウンでの指示もしくは各部門が自己改革するかが必要になりますが、現実には組織の自己変革というのは困難であると思われます。またITの進化への対応についても自社内では限界があると思われます。
そういった意味から、経営者または各部門組織長・構成員を啓蒙し、変革を支援するコンサルタントやITコンサルタント、SIerのような外部リソースの活用も今後の日本企業にとっては非常に重要なファクターとなってくると言う事も最後に付け加えておきます。
|

嶋津先生の出版案内(共著)
「超図解会計入門(4)
いますぐわかる!使える!経営分析入門」
出版社:エクスメディア 定価1,344円(税込み)
|
ポスト京都の温暖化ガス削減目標をめぐって
常任理事・東洋大学教授
経済学博士 山谷修作

「トップダウン」か「ボトムアップ」か、をめぐって喧々囂々の議論。といっても、企業の意思決定の話ではない。京都議定書後における温暖化ガス削減目標の設定方法にほかならない。
今年から京都議定書の実行期間が始まり、欧州や日本は国別に定められた温暖化ガス削減目標を達成しなければならない。日本は2008〜12年度の平均で1990年度比6%削減することを求められている。しかし、現実には2006年度の速報値で6・4%増と、目標達成へのハードルは極めて高い。
2013年度以降の削減目標については、2009年末にコペンハーゲンで開かれるCOP15(国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議)までに協議することとされたが、7月に開かれる洞爺湖サミットで主要国首脳が合意でき、発展途上国を説得できるような妙案を議長国としてわが国が打ち出せるかどうかが問われている。
次期枠組みの制度設計における大前提は、京都議定書の枠組みに加わらず温暖化ガス排出抑制の義務づけを免れた米国や発展途上国の参加である。これらの諸国の不参加により、議定書で削減義務を負う国の排出量は全世界の3割を占めるに過ぎない。「ポスト京都」を意義あるものとするためには、すべての先進国と中国、インドなど主要途上国の参加が欠かせない。
「ポスト京都」をにらんで、温暖化防止の取り組みに意欲的な欧州連合(EU)は、先進国が2020年に1990年比20%の削減目標を設定することを提唱している。これに対して米国は、ブッシュ大統領が2025年までに排出量の伸びをゼロにすると表明するなど、依然として消極的な印象を受ける。しかし、その米国でも、数カ月後には新大統領が選出され、民主・共和いずれの政党が政権をとろうと、温暖化防止により前向きな取り組みがなされるものとみられる。
米国が京都議定書の枠組みを離脱した理由の一つは、主要途上国の不参加であった。とりわけ高い経済成長が続く中国の温暖化ガス排出量の伸びは著しく、2008年にも排出量世界首位の米国と並ぶと予測されている。しかし、人口1人あたり排出量では、中国は米国の10分の1程度にすぎない。このような先進国と途上国間の格差の認識に立って、気候変動枠組み条約には基本精神として「差異ある責任」が規定され、これに基づいて京都議定書では途上国に削減義務を課することは差し控えられたのであった。
さて、洞爺湖サミットを目前に控えて、先進国と途上国双方が納得するような「ポスト京都」の温暖化防止の枠組みをわが国が提案できるだろうか。ここで冒頭の「ボトムアップ」が登場する。京都議定書の国別総量削減目標は、大気中の温暖化ガスの濃度を安定化させることをゴールとして、それを達成するのに必要な世界全体の削減量を算定し、これを各国に割り当てる「トップダウン方式」で設定された。EUの「2020年20%削減」もこの方式である。これに対して、1月のダボス会議でわが国の福田首相が提唱したのは、エネルギー効率指標を用いて電力、鉄鋼、セメントなど主要産業セクター別の排出削減可能量を算定した上で、これを積み上げて先進国の新たな国別削減目標を設定し、主要途上国に対しては指標をもとにエネルギー効率改善のための技術移転や資金協力を行う「セクター別アプローチ」と呼ばれる「ボトムアップ方式」であった。
この方式なら、総量削減の枠組みへの組み入れに拒絶反応を示す主要途上国の参加を引き出せるのではないかと期待されている。途上国にとっては、先進国の技術的・資金的な支援を受けることにより、温暖化防止に取り組みつつ、産業の競争力強化を図れるメリットがあるからだ。最大の難点は、排出量削減目標がトップダウン方式と比べて低くなる可能性があり、EUなどからの理解が得られにくいこと。折衷案として、「ボトムアップ方式」で算定した排出削減可能量を国別削減目標の設定に部分的に反映させることも考えられる。
ともすれば各国の交渉力に左右されかねない従来方式と比べ、「ボトムアップ方式」が公平性、客観性、透明性の面で優位にあることは明らかである。低炭素地球社会の実現へ向けて、すぐれた省エネ技術を持つわが国がリーダーシップを発揮することを期待したい。
山谷先生著作案内
1.比較公企業論 各国公企業の実情と諸問題に関する研究 山谷修作/著 高文堂出版社 1978年9月 2,940円
2.現代の規制政策 公益事業の規制緩和と料金改革 山谷修作/編著 税務経理協会 1991年3月 2,854円
3.現代日本の公共料金 山谷修作/編著 電力新報社 1992年5月 3,873円
4.よくわかる新しい電気料金制度 山谷修作/著 電力新報社 1995年10月 1,020円
5.廃棄物とリサイクルの公共政策 山谷修作/編著 中央経済社 2000年4月 3,150円
6.循環型社会の公共政策 山谷修作/編著 中央経済社 2002年7月 3,570円
7.実践・家庭ごみ有料化 制度設計と合意形成プロセス 山谷修作/著 篠木昭夫/著 環境産業新聞社 2005年7月 3,300円
8.ごみ有料化 山谷修作/著 丸善 2007年4月 2,310円
|
|