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<平成28年度 全能連「論文応募」のお知らせ>
本年度 全日本能率連盟 論文大会へ渡邊敬二先生(経営調査士/熊本県)の応募がありましたので御紹介します。会員のほかIPO・内部統制実務士の方で応募希望がありましたら事務局まで紹介ください。論文指導も行います。

論文名 「介護施設事業へのNA(Nursing Automation)の導入」
【論文要旨】
(1)目的
高齢者福祉の新たな施策として2000年(平成12年)に施行された介護保険制度は今年で16年を経過した。いかなる制度も時間がたてば様々な課題点が発生する。介護保険制度も、「団塊の世代」の高齢化や少子高齢化の急激な進展等が予想を超える早さで進んだ結果「介護事業への公的負担の増大」や「介護職員の不足、処遇の問題」が発生し介護事業の経営の変革が求められている。
これらの課題の共通点が「介護にかかる人件費の増加」にあることから、厚生労働省や経済産業省では先端技術を集約した「介護へのロボット」の導入を進めているが、介護事業者や職員には「介護は人の手によってする」という考え方が優先し導入が進んでいない。本論では介護ロボット等の介護のシステムの導入を緩やかに進めることを優先する。このため、現況の介護のシステム化には、介護経営に負担が大きい「見守り」にセンサー等を駆使し、介護業務を補完する「NA(Nursing Automation)」を提案するものである。


(2)内容
1.16年を経過した介護保険の状況について被保険者数の推移、介護保険事業計画と介護給付額の状況を説明する
2.介護保険事業の課題である財政負担の増大、介護職員の処遇の2つの課題に関する説明。
3.課題解決として研究される介護ロボットの導入の内容や課題、本論で提案するHAの具体例としてワイズキーパー((Y’s Keeper)の導入の事例による説明。
4.NAの導入による介護事業経営をワイズキーパー導入事例にもとづいて説明

(3)結論
現在、高齢者介助にロボットの導入が検討されているが、介護事業経営者や職員の中に「介護は人間の手によってする」という考え方が強く「介護ロボット」の導入への足かせとなっている。 本論では介護事業へセンサー等を駆使した見守りシステムの「ワイズキーパー」を導入し、介護経営への人件費負担の増加と見守りによる介護職員の負担軽減を行い、介護経営者には新たな事業転換のスキュームを介護職員には仕事のモチベーションを提供する。

介護老人福祉施設の転回点(新たな人材発掘とICTの導入)

渡邊経営調査士事務所  経営調査士 渡邊敬二

<本文中の図表の一部、参考資料/掲載を省略>

1,はじめに

本論では、介護職員の雇用不足等の諸課題に直面する「介護老人福祉施設」の経営安定のため新たな人材の確保及び介護業務へのITCの導入の可能性について述べる。

2,高齢化の状況

2000年(平成12年)に「みんなで支える老後の生活」をスローガンに開始した介護保険制度もいよいよ「団塊の世代」が高齢化し、平成25年には国民の約25%となる3,186万人が65歳以上の人口となった。 これは全国平均の高齢化率であり、人口規模の小さな自治体では30%を超える市町村も自治体も珍しくない状況である。

今後の高齢者数の推移は「表1(省略)」の通りである。 戦後、一貫して増加し続けてきたわが国の総人口も2020年(平成32年)には減少に転じる。 ところが減少する人口とは裏腹に高齢者人口は増え続け、2025年(平成37年)に総人口の30%が65歳以上の高齢者となる。 この中で総人口の約25%が70歳以上の高齢者によって構成され我が国の社会全体が「超高齢化」を迎えることになる。 そこで「65歳以上(人口数)」の「内70歳以上」の欄の()書きを確認していただきたい。 2020年以降()内の数字が減少に転じている。 これは「団塊の世代」の高齢化が収束し始め、毎年65歳に達する人口数が減少転じるが「65歳以上の人口」も高齢化率も増加し、社会全体が「超高齢化」に歯止めをかけることができなくなっている。 社会全体の高齢化より、介護保険等の社会保障関係費も平成27年度が294,505億円と国家予算958,823億円の3分の1に、中でも社会保障関係費の内高齢者の介護費用に充てられる介護保険関係が27,592億円と社会保障関係費の10%を占めている。

3,厳しい経営環境の介護老人福祉施設

我が国の社会全体の高齢化への取り組みとして2000年(平成12年)に「介護保険制度」が施行され、その後、高齢化に柔軟に対応するため3年ごとに「介護保険計画」が見直され15年を経過した。 今年度(2015年)から3カ年間は第6期の計画期間であり、今回の計画では介護保険制度全体の大幅な見直しが行われた。 介護老人福祉施設も例外なく改正が実施され、中でも施設入所対象となる介護度を要介護3以上に、介護サービスに伴う介護給付率に対しては、介護施設等の平均収支差率が平均で8%以上であるとして大幅な減額となっている。 また、雇用不足に対応し、いくつかの見直しが行われたが施設に対しては利用者家族からの要望が多い半面、施設や介護職に負担が大きい「看取り介護」の強化等、雇用不足等の山積する課題解決には、程遠い見直しであった。

現在、介護事業全体の雇用状況は下記表のとおりである。 2008年から14年までの離職率の平均が16.5%、採用率20.6%(表3省略)は製造業10.6%、情報通信関係業11.3%の離職率からすれば高いレベルにあり、採用率も、製造業9.6%、情報通信業13.6%などと比較しても採用率も高いレベルである。 これらの理由としては「低賃金」と「仕事がつらい」「採用が困難な理由」があげられている。 これらのデータからうかがえる介護労働は「厳しい雇用条件と低い社会的評価で失われたモチベーションの中、繰り返される離職と補うための大量採用」であることが推測される。 

高齢者介護は「介護職員」が高齢者への生活援助をする事業である。 つまり、職員による「介護」は、工業が工場を稼働させて製品を生産すること該当する 工業では高い生産性を維持するため、高い能力を持つ労働者の採用とテクノロジーを駆使した機器の導入が工業の発展を支えてきた。 無論、介護事業も同様である、高齢者介護への意識を持つ介護職の採用と、介護を効率的に実施するために先端技術を駆使した介護業務機器等の導入によって介護事業を発展させなければならない。 即ち、急激な高齢化に対し、介護事業が雇用不足等の負の要因で「足踏み」することで介護事業が後退し、経営を圧迫し低賃金等により人材不足を生み「負の連鎖」につながっている。 今後、介護老人福祉施設経営には新たな人材の発掘や介護業務へのICT導入等の「イノベーション」を必要としている。

表2 介護業務の採用率・離職率(%)

項目/年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

平均

採用率

27.4

22.6

25.2

25.8

21.0

23.3

21.7

20.6

離職率

21.6

18.7

17.0

17.8

16.1

17.0

16.6

16.5

4 採用が困難な理由

項目/理由

低賃金

仕事がつらい

社会的評価

休暇取得

雇用不安定

構成比

61.3

49.3

38.2

22.6

17.8

資料:平成26年度介護労働の実態調査

※介護事業等の収支差率=(介護事業収入−介護事業費用)/介護事業収入


4,介護労働への新たな人材の発掘

介護老人福祉施設の経営に雇用不足は深刻な問題である。 実際に、施設管理を担当している際にこの課題に直面したが、対策を介護経験があるなしを問わず60歳以上の再雇用を進めた。 当初は、臨時的な雇用不足への穴埋めのつもりで採用した60歳以上の介護職であったが勤務成績も良好、入所者とのジェネレーション・ギャップも浅く介護の戦力として比類のない人材であった。 実際に「表5」を確認していただきたい、これは介護業務に従事する職員の年齢別構成である。実際に施設等で勤務する介護職員の12%、訪問介護に従事する介護職員の内32%を60歳以上の職員により構成している。 

国や地方公共団体、会社等で60歳から65歳に達すると「定年」として業務の第一戦からリタイヤしているが、身体的、精神的なリミットがこの年齢であるとは信じがたい。

特に、24時間での交代制勤務を強いられる介護職の勤務は60歳以上の再雇用には子供の学校行事や家庭に左右されずに、定年までに磨いた職場や社会での経験を生かすチャンスでもある。 しかし、60歳以上の再雇用も始まったばかりであり、今後、介護事業に60歳以上の定年後再雇用者を採用し戦力とするために整備しなければならない雇用条件等も多くあったことから、特に、社会保険制度を中心とした課題と改正点を「表6」により提起する。

表5 年齢構成(年齢別介護労働に従事する職員構成)

項目

20歳未満

20〜29歳

30〜39歳

40〜49歳

50〜59歳

60歳以上

介護職員(施設等)

1.2%

19.0%

24.0%

22.4%

19.7%

12.0


男性(23.3%)

1.3%

30.1%

33.8%

17.1%

9.2%

7.3

女性(73.0%)

1.1%

15.5%

21.0%

24.1%

23.1%

13.5

訪問介護員

0.2%

4.3%

11.6%

22.9%

27.5%

31.6


男性(7.0%)

0.9%

15.0%

24.1%

20.2%

18.7%

19.8

女性(88.6%)

0.2%

3.5%

10.6%

23.3%

28.2%

32.5

資料:第1回社会保障審議会福祉部会福祉人材確保委員会(資料2)平成26年10月27日

表6 介護業務への定年後再雇用に関する課題と改正点

課題

改正点

年金と給与の併用

年金を受給する被雇用者の収入の月額上限が280,000円であり、高額の給与を支給されると年金の減額、停止等の措置となるので勤務時間に制限を加えなければならないこと。

介護労働に従事する年金を受給する職員の月額上限を50万円までとし、給与と年金が50万円を超える場合に年金の減額を段階的に実施する。

 厚生年金の支払義務

定年後、年金を支給されながらも、給与から社会保険料として厚生年金分を控除しなければならないが、5年程度の厚生年金を掛けてもわずかな支給額の増額しかなく、無駄な掛け金となること。

介護労働等のように高齢者が勤務することが社会的貢献として認められ勤務での社会保険料納付時の厚生年金の控除は本人の意思によって加入・未加入の判断ができること。

 

6,介護へのITC導入

 介護保険は、2000年の事業開始の時期より一次判定システムや介護認定支援のシステム等の認定事務や介護報酬請求等で各種のシステムが採用されてきた。

 介護老人福祉施設運営上の事務等処理系統は総務、経理、ケアプラン作成や給付請求等の「事務系」と直接介護にあたる介護業務、看護業務、調理業務の「業務系」に区分することができる。 特に、多くの業界で導入され省力化に貢献する事務のOA化、ロボット等のシステムの導入が介護老人福祉施設では事務系へのムの導入は介護保険制度が施行と同時に導入されているが、直接介護にあたる業務系では「介護ロボット」の研究等が進められているにも関わらず導入例は少ない。 この理由として食事介助や入浴、排せつなどの生活介助を主体とした介護動作が複雑なことや、一部の理事会や介護職員の中に「介護は人の手により行うもの」という考え方が根強くあり、開発や導入への足かせなっている。

 しかし、全くシステムの導入が不可能であるわけではない、介護業務を補完する業務の中にはシステムにより業務の改善が可能な個所がある。 現在、介護業務でウェイトを占める業務に「見守り」がある。 これは入所者の「歩行」「立ち上がり」といった日常動作が加齢や認知症を原因として突発的な転倒等の事故を防止するために行う、この時間の長さが介護業務へのモチベーションを低下させていることも否めない。 食事介助等の生活介助と比較して「見守り」の業務は「人の動作」を観察して危険行為を防止するものであり、エリアセンサー、近接センサー等のセンサーと無線によるデータの送受信に使用する「ISMバンド」を駆使したシステムで「見守り」業務へのシステムの導入を検討する時期にある。 また、煩雑な業務である入所者の薬の配薬を、医療用「持参薬鑑別システム」を活用し、配薬の時間節減や投薬ミスを防止することも業務改善に貢献する。

現在、不足する介護職員の対策として、厚生労働省では「介護ロボット」等の介護業務全般へのシステム導入が検討されている。 しかし、実際に介護職と接し、介護業務に関する職員へのアンケートから、介護に従事する職員は「低い社会的評価」や厳しい業務であるにも関わらす「人の手による介護」へ高いプライドとモチベーションを持っている。

ならば、将来の課題としての「介護ロボット」等の介護業務への全般的なシステム化」として、導入を検討すべきは「見守り」等をサポートし業務の負担を軽減するシステム化を優先すべきではないだろうか。

7,経営改善に向けて

我が国が導入した「介護保険制度」はこれから高齢化を迎えようとする各国の前例として高く評価されている。 しかし、介護事業のフラッグシップ「介護老人福祉施設」の平均収支差率が8%以上、なおかつ高額な「内部留保」等施設財政が豊かなる反面、介護に従事する職員の「低賃金」「社会的に低い評価」による「雇用不足」という両極端な状況は、各国での評価を下げてしまうマイナスの要因である。

介護事業を経営面から俯瞰すれば、豊富な基金や需要が供給を上回り不足する施設の床数等、他の産業よりも有利な条件を持ちながらも、介護事業へ従事する職員の「雇用不足」であることは、必ずしも「介護産業の急激な成長」からの歪ではない。 介護労働への待遇改善を無視し「基金重視」を続ける理事会や理事長、社会的重要性の高い介護業務への認識の欠けた社会が生み出した歪であると思わざるを得ない。

 無論、わが国の雇用構も「高齢化」により労働人口の大幅な減少等、厳しい現実にさらされている。 これらの要因を複合的に検討した際に介護労働へ、定年後再雇用となる60歳以上の雇用や介護業務の一部にICTを導入することは介護老人福祉施設経営への要請と考えるものである。                                       (了)


平成27年度:全日本能率連盟「論文大会」応募論文の作成趣旨 ―

<事務局>

  平成27年度の全能連「論文大会」に正会員の渡邊先生が応募されました。論文審査中ですので全てはお知らせできませんが、以下に作成趣旨を掲載して御報告を申し上げます。

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一人医師診療所におけるBCM

渡邊経営調査士事務所 

経営調査士・行政書士 渡邊敬二

論文作成の趣旨

 阪神淡路大震災、東日本大震災などの大規模災害や毎年繰り返される風水害に対し、国や自治体、企業は災害時の事業継続を目的としたBCP(Business continuity Plan:事業継続計画)を策定している。 自治体では東京都福祉保健局が平成24年7月に「医療機関における事業継続(BCP)ガイドライン」を打ち出した。 これは災害時の医療機関向けガイドラインで、災害拠点病院、災害拠点病院以外の病院が大模震災等の災害時でも病院機能を維持できるよう策定するBCPである。 また、厚生労働省が平成25年9月に発表した「医療機関における新型インフルエンザ等対策立案のための手引き」は同年4月に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が施行されて、各医療機関で新型インフルエンザ等BCPを策定する際のガイドラインとして施行された。 

また、これ以外にも他の省庁、都道府県等の自治体では大規模災害等の緊急時のBCPを策定する際のガイドラインとして公布されている。 

都市直下型の震災では、国や自治体が被災した住民への対応と破壊されたライフラインの復旧に翻弄され、公共機関としての機能が麻痺する可能性がある。 しかし、国や自治体はいかなる災害下にあっても住民生活に必要なライフラインの確保や高齢者への介護といった、通常の業務を継続しながら復旧に向けた災害対策事業等実施しなければならない。  この点は医療機関も同じである、震災等で医療施設が被災しても医療を停止することはできない、むしろ、災害時の救命救護体制に組み込まれ、救急の医療体制の強化しながら、日常の診療を続けなければならない。 医療機関が備えるBCPは災害時ばかりではない、診療所運営や医師の日常生活からの様々なリスクに対応したBCPを備えなければならない。 それが「医療機関における事業継続(BCP)ガイドライン」等である。 このことから本論では医療機関の内、最も開院数が多い診療所の内、医師が一人で医療にあたる「一人医師診療所」の災害や事件、事故時のBCPを前提としたBCM(事業継続マネジメント)を中心に論述した。


目次

1,はじめに

2,「一人医師診療所」等の医療機関の状況

3,診療所等の組織と地方での医療

4,診療所のBCP(実際に起きた事件)

5,事業継続計画(BCP)の管理プロセス事業継続マネジメント(BCM)

6,組織固有のリスク

7,個人固有のリスク

8,BCPの策定

9,おわりに

役員御寄稿(会報367号掲載分)

会社法改正と法人格否認の法理
常任理事・法学博士 井上和彦

「会社法の一部を改正する法律」が,昨年の平成26年6月20日に成立し,平成26年6月27日に公布され,平成27年5月1日に施行された。

1.改正の理由
会社法は,平成17年に成立し,平成18年から施行されていたが,近時,経済のグローバル化が進展する中,「取締役に対する監督の在り方を中心に,コーポレート・ガバナンスの強化を図るべきである
との指摘がされるようになった。また,親子会社に関する規律の整備の必要性も,会社法制定以前から指摘されていた課題である。
これらの指摘等を踏まえて,コーポレート・ガバナンスの強化及び親子会社に関する規律等の整備等を図るために,会社法の改正がされた。この改正により,日本企業に対する内外の投資家からの信頼が高まることとなり,日本企業に対する投資が促進され,ひいては,日本経済の成長に大きく寄与するものと期待されている。

2. コーポレート・ガバナンスの強化のために改正された点
(1) 社外取締役の機能の活用
取締役会の業務執行者に対する監督機能を強化するために,社外取締役をより積極的に活用すべきであるとの指摘が強くされていたことを受け,次の3つの改正がされた。
1 監査等委員会設置会社制度の創設
現行法における監査役会設置会社及び委員会設置会社(改正後の名称は,指名委員会等設置会社)に加えて,監査等委員会設置会社制度が創設された。
この制度は,3人以上の取締役から成り,かつ,その過半数を社外取締役とする監査等委員会が監査を担うとともに,業務執行者を含む取締役の人事に関して株主総会における意見陳述権を有するというものであって,社外取締役の機能を活用しやすい機関設計を創設するものである。
2 社外取締役等の要件の厳格化
株式会社又は子会社の業務執行者等に加え,親会社の業務執行者等及び兄弟会社の業務執行者等や,その株式会社の業務執行者等の近親者も,その株式会社の社外取締役等となることができないこととし,社外取締役等による業務執行者に対する監督等の実効性を確保することとしている。
3 社外取締役を置くことが相当でない理由の説明
社外取締役を置いていない上場会社等の取締役は,定時株主総会において,社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならないこととし,社外取締役の導入を促進することとしている。

(2) 会計監査人の独立性の強化
会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定権を有する機関を,取締役又は取締役会から監査役又は監査役会に変更することとして,会計監査人の独立性を強化している。

(3) グループ内部統制システムの整備
改正法は,親子会社のガバナンス強化を目的として,当該会社のみならず,その子会社も対象としたグループ内部統制システム(企業集団内部統制システム)の整備義務を,会社法施行規則(会社法施行規則98条1項5号,100条1項5号,112条2項5号)における規律から会社法(改正法348条3項4号,362条4項6号,399条の13第1項1号ハ,416条1項1号ホ)における規律に「格上げ」した。これに伴い,改正施行規則においては,取締役(会)設置会社におけるグループ(企業集団)内部統制システムの内容として,@当該株式会社の「子会社の」取締役等の職務の執行に係る事項の当該株式会社への報告に関する体制,A当該株式会社の「子会社の」損失の危険の管理に関する規程その他の体制,B当該株式会社の「子会社の」取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制,及びC当該株式会社の「子会社の」取締役等及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制(改正施行規則98条1項5号イ乃至ニ,100条1項5号イ乃至ニ,112条2項5号イ乃至ニ)が含まれることが明示された。

3. 親子会社に関する規律の整備のための改正
(1) 多重代表訴訟制度の創設
完全親会社の株主を保護するため,一定の要件の下で,完全親会社の株主が,その完全子会社の取締役等の責任を追及する制度(多重代表訴訟制度)が創設された。

(2) 組織再編の差止請求制度の拡充
合併等の組織再編における株主を保護するため,通常の組織再編についても,株主は,一定の要件の下,組織再編の差止めを請求することができることとされた。

(3) 詐害的会社分割によって害される債権者の保護規定の新設
詐害的会社分割(分割会社が,承継会社に債務の履行の請求をすることができる債権者(承継債権者)と,当該請求をすることができない債権者(残存債権者)を恣意的に選別した上で,承継会社に優良事業や資産を承継させるなどする会社分割)が行われた場合に,残存債権者の保護を直接的かつ簡明に図るために,分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をした場合には,残存債権者は,承継会社等に対して,承継した財産の価額を限度として,債務の履行を請求することができることとされた。
これは,法人格否認の法理の立法化に他ならない。
法人格否認の法理とは,法人格が形骸にすぎない場合や法人格が濫用されている場合に,紛争解決に必要な範囲で,法人とその背後の者との分離を否定する法理である。
アメリカの判例理論に由来する法理である。日本の法律に明文の規定はなかった。昭和44年2月27日の最高裁判所第一小法廷判決,最高裁によってその法理としての採用が初めて認められた。以降,裁判例での採用が相次ぎ,学会での研究も進んだが,実定法上の根拠は商法・会社法上には存在せず,民法1条3項などの一般条項に求められていた。

参考文献
井上和彦『法人格否認の法理に関する比較法的考察』駿河台出版社。
井上和彦『法人格否認の法理』千倉書房。
井上和彦『アメリカにおける法人格否認の法理』駿河台出版社。
井上和彦『一人会社論―法人格否認の法理の積極的適用』中央経済社。
井上和彦『現代経営の諸問題と企業関連法』中央経済社。
法務省「会社法が改正されました」
西村あさひ法律事務所弁護士木弘明「会社法改正法案の概要」
湊総合法律事務所弁護士湊信明「60分以内に理解する会社法改正講座〜御社は,改正法施行までに何を準備しておけば良いのか?〜」
弁護士・ニューヨーク州弁護士柴田 寛子「改正会社法施行規則・パブコメ回答に基づくコーポレート・ガバナンス関連の実務ポイント」

平成27年度/資格更新 優秀論文
日本版コーポレートガバナンス・コード原案に関る一考察

松山大学大学院 経営学研究科
IPO・内部統制実務士 八木英夫

はじめに

2014年12月12日、金融庁と東京証券取引所(以下、東証)が共同事務局とする「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」(以下、有識者会議)の第8回において、「コーポレートガバナンス・コード原案〜会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために〜」(以下、コード原案)が了承された。同月17日に公表され、2015年1月23日までパブリックコメントに付されたが、この間に寄せられた意見なども踏まえ、最終的な形にまとめられて有識者会議の第9回(同年3月5日開催)において確定し、了承されることとなった。
そこで、本稿では、コーポレートガバナンスとは何かという視点に立脚しながら、日本版コーポレートガバナンス・コード原案の狙いと背景、そして概要と特徴を整理し、今後の留意点を述べることとする。

1.経緯と背景

コード原案は、2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」の方針に基づき、これまで有識者会議において2014年8月から2015年3月まで合計9回の議論を経てまとめられ、2014年2月に策定された機関投資家に対する規範である、いわゆる日本版スチュワードシップ・コードに続き、アベノミクスの成長戦略の両輪となるものである。
有識者会議では「『日本再興戦略』改訂2014」における方針、即ち、日本企業の「稼ぐ力」を向上させるための政策として、東証のコーポレートガバナンスに関する既存のルール・ガイダンス等や、OECDコーポレートガバナンス原則(以下、「OECD原則」)を念頭に、我が国企業の実情等にも沿い、国際的にも評価が得られるものとするという方針に従い、議論された。そのため、内容はOECD原則の趣旨を踏まえたものとなっている。
これらのことから窺えるように、今回の日本版コーポレートガバナンス・コード策定は、企業の不祥事に端を発した企業倫理問題への対処からではなく、日本経済の成長戦略を検討する過程で生まれたものと言えよう。

2.目的

コード原案では、コーポレートガバナンスを次のように定義している。
「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」としている。コーポレートガバナンスについては、定義をするうえでその対象(誰を対象とするのか)、目的(何のために)、主体(誰が統治するのか)の3つを明確にする必要があろう。
まず、対象は会社である。具体的には、経営陣であり、取締役会のような機関ということであろう。
次に目的は、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うためである。さらに、前文7で補足的に、「会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過渡に強調するのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることを主眼とする」、いわゆる“攻めのガバナンス”の実現を目指すためと説明している。
そして主体については、同様に前文7で、「会社は、株主から経営を付託された者としての責任(受託者責任)をはじめ、様々なステークホルダーに対する責務を負っていることを認識して運営されることが重要である。
と書かれていることから窺えるように、経営を委託している株主ということになろう。
では他の文献では、コーポレートガバナンスはどのように定義されているのであろうか。上級IPO・内部統制実務士資格の公式テキストである「これですべてがわかるIPOの実務」によれば、「コーポレートガバナンスとは、『企業統治』と訳され、企業における意思決定の仕組みのことを指す。法律上では企業は株主のものであり、統治の主体は株主であることから、コーポレートガバナンスの本来の目的は企業価値の増大となる。」となっている。
従ってここでは、対象は企業、目的は企業価値の増大、主体は株主ということになる。 相違点を挙げれば、コード原案では、「攻めのガバナンス」を強調していることと、様々なステークホルダーに対する責務を謳っていることであろう。ここにその意義と狙いがあると思われる。

3.概要

コード原案の適用対象は、原則として、我が国取引所に上場する会社を適用対象とするものとされている。但し、本則市場(市場第一部、市場第二部)以外の市場(マザーズ市場、JASDAQ市場など)に上場する会社については、会社の規模・特性等を踏まえた一定の考慮が必要となる可能性があることから、今後、東証において整理がなされることが想定されている。
コード原案に基づく規範は、「基本原則」(5項目)、「原則」(30項目)、「補充原則」(38項目)の3段階で構成されている。最上位の「基本原則」は、抽象的・一般的な原則(プリンシプル)を定めており、下位の「原則」、「補充原則」が、これをブレークダウンした細目を規定している。
コード原案の構成は次の通り。

コード原案の構成

【基本原則1】 株主の権利・平等性の確保
原則1-1 株主の権利の確保
原則1-2 株主総会における権利行使
原則1-3 資本政策の基本的な方針
原則1-4 いわゆる政策保有株式
原則1-5 いわゆる買収防衛策
原則1-6 株主の利益を害する可能性のある資本政策
原則1-7 関連当事者間の取引

【基本原則2】 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
原則2-1 中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定
原則2-2 会社の行動準則の策定・実践
原則2-3 社会・環境問題をはじめとする サステナビリティーを巡る課題
原則2-4 女性の活躍促進を含む社内の  多様性の確保
原則2-5 内部通報
【基本原則3】 適切な情報開示と透明性の確保
原則3-1 情報開示の充実
原則3-2 外部会計監査人

【基本原則4】 取締役会等の責務
原則4-1 取締役会・責務(1)
原則4-2 取締役会・責務(2)
原則4-3 取締役会・責務(3)
原則4-4 監査役及び監査役会の役割・責務
原則4-5 取締役・監査役等の受託者責任
原則4-6 経営の監督と執行
原則4-7 独立社外取締役の役割・責務
原則4-8 独立社外取締役の有効な活用
原則4-9 独立社外取締役の独立性判断基準及び資質
原則4-10 任意の仕組みの活用
原則4-11 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件
原則4-12 取締役会における審議の活発化
原則4-13 情報入手と支援体制
原則4-14 取締役・監査役のトレーニング

【基本原則5】 株主との対話
原則5-1 株主との建設的な対話に関する 方針
原則5-2 経営戦略や経営計画の策定・公表

(注)原則のうち、その一部には補助原則がある。

4.特徴

以下に、コード原案の特徴をまとめることとする。
第一に挙げたいのは、株主との対話促進である。OECD原則にはない内容を敢えて5つの基本原則のひとつとして取りあげているが、これは此れまで、多くの我が国企業が従業員、取引先、金融機関などのステークホルダーと比べて、株主との対話に必ずしも積極的でなかったとする状況が反映されていると思われる。また、前文8において、「市場においてコーポレートガバナンスの改善を最も強く期待しているのは、通常、ガバナンスの改善が実を結ぶまで待つことができる中長期の株主であり、こうした株主は、市場の短期主義化が懸念される昨今においても、会社にとって重要なパートナーとなり得る存在である。」として、中長期保有の株主との対話を促している。
第二は、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向け、取締役会の活性化と、その実効性を確保するという観点から、独立社外取締役を最低2名以上選任すべきであるとし、具体的な数値目標を示していることである。
第三は、株主の権利・平等性を担保するために、政策保有株式のねらいと合理性の検証が求められることである。その背景には、政策保有目的でのいわゆる株式の持ち合いは、適切なガバナンスを確保することに支障を生じさせる恐れがあり、合理的理由がない限り、極力縮小するべきではとの問題意識があると思われる。そのためコード原案では、具体的に原則1-4において@政策保有株式に関する方針の開示、A取締役会での合理性の検証と説明、B議決権行使基準の策定・開示が求められている。
第四は、「プリンシパルベース・アプローチ」(原則主義)を採用していることである。
「プリンシパルベース・アプローチ」とは、一般に、詳細なルールを設定する「ルールベース・アプローチ」(細則主義)ではなく、会社が各々の置かれた状況に応じて、実効的なコーポレートガバナンスを実現できるよう、主要な原則を示してそれに沿った自主的な取組みを促す手法であると言われている。
第五は、「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)の手法を採用していることである。即ち、コード原案の各原則(基本原則・原則・補充原則)の中に、自らの個別事情に照らして実施することが適切でないと考える原則があれば、それを「実施しない理由」を十分説明することにより、一部の原則を実施しないことも許容されている。

5.今後の留意点

今後、東証において「『日本再興戦略』改訂2014」を踏まえ、関連する上場規則等の改正を行うとともに、本コード(原案)を内容とする「コーポレートガバナンス・コード」、いわゆる日本版コーポレートガバナンス・コードを制定することが期待されている。
新ルールの適用は6月1日からで、今年6月に株主総会を開く企業からその対応が求められる。限られた時間軸の中で、企業側には間に合わせられるのかという不安の声も少なくないという。
例えば独立社外取締役の複数選任について言えば、まず、東証側には独立性の基準作りが必要となる。一方、企業側には独立社外取締役の確保の問題が出てくる。みずほ銀行産業調査部調べによれば、仮に上場企業すべてが最低2名以上の独立社外取締役の選任を行うとすると、約4,800人の追加独立社外取締役人材が必要となり、新興市場を除く東証1部、2部の企業を対象とすると、3,000人超の追加独立社外取締役人材が必要となるという試算もある。「コンプライ・オア・エクスプレイン」手法のもと、選任しない場合はその理由を十分説明することが求められているとは言え、果たしてこれだけの人材をどう確保し、コーポレートガバナンスの実効性を挙げることができるのであろうか。迅速かつ実務的な対応が求められている。
その他、コード原案には、企業にとって対外的に発信すべき方針・情報は多く、その負担は大きい。東証には実務的な混乱や、企業の負担を回避し、本来の日本版コーポレートガバナンス・コード原案の目的である 、“攻めのガバナンス”の実現に向けたルールや、環境の整備が期待されていると言えよう。
以上

 

会員有志:随筆御寄稿・・・会報「H27年/新年号(補稿)」

リーダーシップに関する一考察

公益財団法人阿蘇地域振興デザインセンター
事務局次長 渡邊敬二(経営調査士)

昨年(平成26年度)の日本経営調査士協会の論文の応募作品は「介護老人福祉施設におけるリーダーシップ」と題する論文で応募した。論文を書きながら、リーダーシップに関する資料や文献をあたりながら、つくづく「リーダーシップ」の各論の奥の深さに驚いた。三隅二不二(みすみ じゅうじ/じふじ)先生の「PM理論」を皮切りにハーシィ(P.Hersey)とブランチャード(K.H.Blanchard)のSL理論やブレイク(R.R.Blake)とムートン(J.S.Mouton)によって提唱されたマネジリアル・グリッド論等のリーダーシップ論があり、いずれの理論も実践的で納得がいく考え方である。 試しに今年の11月から「FB(フェースブック)」で特集的に論説を掲載したところ、思いにもよらない意見が多かった、やがて、あの難解な「サーバントリーダ論」まで掲載することとなるだろう。


とにかくリーダーシップ論は実に奥が深い。 特に、三隅二不二先生の「PM理論」ははX軸に「課題達成機能(仕事等への集中力や完成度)」をY軸に「集団維持機能(人を率いていく技能や能力)」をとったものでそれぞれの強度によってPm型(課題達成能力はあるが、集団維持機能はイマイチ)タイプと「pM型(集団維持機能は優れているが課題達成能力はイマイチ)というタイプと、pm型(課題達成機能、集団維持機能もイマイチ)とPM型(課題達成機能、集団維持機能いずれも充分な素質を持つタイプ)となり、非常に分かりやすく、FBでの掲載では「実践的」かつ「理解しやすい」との意見が多かった。 そこでこの評価を職場に当てはめると次のとおりである。多分、このタイプはどの職場でもこのタイプに該当するタイプがいるはずである。

PM理論の職場のタイプ

タイプ

Pm型

仕事は着実にこなしていくが、個人能力指向型でリーダーとして組織を動かすことはない。 自分の仕事が終わればさっさと帰り、飲み会にも付き合い程度の出席。

pM型

仕事への執着心はなく机の上は片付けないし仕事への執着心もない,しかし組合では書記長を務め弁舌も鮮やか、職場の飲み会の幹事役を務める。所謂、釣りバカ日誌の浜ちゃんタイプ。

pm型

仕事への執着心も出世欲も少なく、その日が何とか終われば帰宅する。 しかしながら趣味の世界では有名で新星を見つけ自分の名前を付けているようなタイプ

PM型

仕事も着実にこなし職場でのリーダーとして誰もが認めるタイプ、全く非の打ちどころもなく、誰からも慕われるタイプ

PM理論を職場に当てはめると「このような職場での姿が浮かんでくる。 

このリーダーシップ論を何とか実践に役立てようと思ったが、今のところ勤務評価に当てはめるだけの理論に乏しい、せめて選挙の際、政治家を評価する程度しか「リーダーシップ論」は当てはまらないようである。

そこで、チャンバラ映画や歴史小説を読む際の選択の材料しようと思い立った。早速、歴史小説のリーダーとして、まず、思い出すのは戦国期の「織田信長」「豊臣秀吉」「徳川家康」の所謂、「天下3兄弟」である。

 しかし、この3人どうもリーダーシップとして比較するには何かが違う。「織田信長・・わがままなパワーハラスメントの権化」「豊臣秀吉・・立身出世はよかったが、最期は身代をわが子に譲りたいだけの親ばか親父」「徳川家康・・確かに戦国のリーダーであるが、どうも取り巻きの「伊井」「酒井」「本多」あたりがリーダーシップを果たしているような存在」となり、全くリーダー論に沿っていない。

それで明治の元勲「西郷隆盛」「坂本竜馬「大久保利通」「伊藤博文」を考えたが、「西郷」を除けばいずれも維新後、政治家となり、リーダーシップ論にはいささか「生臭い」感じがする。

 そこで、ハタと気がついた。わが国にはリーダーシップを論ずるにちょうどいい題材がある。そう「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵宣似、「遠山の金さん」こと遠山金四郎景元そして「大岡越前」こと大岡越前守忠相の3人である。この内、火付盗賊改であった長谷川平蔵宣似除く2人は江戸町奉行である。この3人は火付盗賊改や町奉行として「リーダーシップ論

がよく似合っているような気がする。 

ただし、この方々いずれも実際の歴史的人物である。 その偉い方々を今さらリーダーシップ論とは笑止千万となるが、例えば「鬼平犯科帳」の池波正太郎先生の小説やテレビでお馴染みの「遠山の金さん」「大岡越前」等の物語を題材にした「リーダーシップ論」ならば許されると信じた。 決して、NHKの大河ドラマのように時代背景や史実にもとづくものではない。

 さて、それでこの3人、前出の三隅二不二先生の「PM理論」でひも解くとどのような展開あろうか下記の表をご覧いただきたい、これはあくまでわたくしの推論であり、詳細は今後の研究成果(いずれ論文で発表の予定である。)をご覧あれ。

 

<遠山の金さんこと遠山金四郎景元・・・・pM型>

この方ご存じのとおり刺青を武器に町奉行でありながら市中で出向き、犯罪を探る。

いざとなれば片肌脱いで「この刺青・・・」となり、お白州でも刺青を披露し「この桜吹雪に見覚えがねぇとは言わせねえぜ!」となり一件落着である。 ところがこれをリーダー論に当てはめるととても完璧なリーダーシップといえない。 仮にこのような部長が職場に居て、部下に勝手に支店や営業所を見回り、受付の応対が悪かったり、掃除が行き届いていいないといきなり「IDカードや名刺」見せてこれ見よがしにでかい声で責任者を叱り「一件落着

では組織もたまったものではない。よって「Pm型・・・仕事は着実にこなしていくが、個人能力指向型で組織を動かすタイプではない」と判断

<大岡越前こと大岡越前守忠相・・・・・pM型>

歌舞伎や小説でお馴染みの「大岡裁き」お白州の裁判長としてなるほどという判例であるが、どうも、部下を指揮して犯罪捜査にあたるような場面に乏しく、日頃から過去の判例などを勉強し、頭に入れて判定を下すタイプ。職場の部長や専務に例えれば取締役会で法務部門を無視して、自分の理論を展開し、全く部下からの提案や意見を聞かずに最終靴論に至ってしまう「自己完結型」のタイプ、よってPM論では「Pm型・・・仕事は着実にこなしていくが、個人能力指向型で組織を動かすタイプではない」と判断

さて、前出の2人とは異なり、静よりも「動のタイプ火付盗賊改方「鬼の平蔵」こと長谷川平蔵宣似のお出ましである。かれは明らかに「PM型」それも巧みに部下を動かし、組織を取りまとめるラージM+Pのタイプタイプである。

 この小説を読むと火付盗賊改方の組織が長官である長谷川平蔵、その下に筆頭与力の佐嶋忠介や天野甚造他3名、筆頭同心酒井祐助、同心沢田小平次・木村忠吾他多数、更に、長谷川平蔵に捕まるものの彼の仁徳に触れ会心し密偵となった小房の粂八、相模の彦十、大滝の五郎蔵やおまさの面々である。この組織について作家池波は「鬼平犯科帳6巻」で次のとおりとしている「幕府から40人分の役扶持が出るけどもとてもとても足りるものではない(略)配下の与力(10名)同心(40名)もこうした長官の苦労をよく知っているから妻に内職をさせ、その賃金で自分が使っている密偵をねぎらったり・・」とある。

まさしく、自分の身を切って与えながら仕事を進めるタイプのリーダーである、「鬼平犯科帳」24巻の中には、配下の与力や同心、そして密偵となった小房の粂八、相模の彦十、大滝の五郎蔵やおまさの活躍が生き生きと描かれ、組織を動かしながら犯罪捜査にあたる長谷川平蔵の姿が生き生きと描かれる。正しくこれも日本型のリーダーとして理想像である。仮にこのタイプが職場の上司であれば、仕事にハリのある毎日でしょう、多分、夕刻、この上司に誘われて深川の船宿「鶴や」か本町二ツ目の軍鶏鍋や「五鉄」に繰り出すこと、これもありのような気がします。

さて、時代小説に書かれた3人の主人公をもとにリーダー論を書かせていただいたが、このリーダー論は心理学でも経済学でもなく「行動科学」の分野に組み込まれている。行動科学とはいささか耳慣れない学問である。

行動科学とは「人間の行動を実証的に研究し、その法則性を明らかにしようとする科学の領域。心理学・社会学・人類学・精神医学などが含まれ、総合化・学際化などを特徴とする。」とある。総合化とあるので「いくつかに分局したものを統合する」ことになる。つまりリーダーシップ論そのものが複数の学問をより集めて成立する理論と考えることになる。それでは経営学と同じである。経済や商学そして法学や数学、更には心理学や歴史学等、ありとあらゆる分野を総合化したものが「経営学」であればリーダーシップ論そのものが経営学といえるものである。

さて、このリーダーシップ論が経営学とどう結びついてどのように展開するのか?時間をかけて研究することが必要である。(了)

 

会員有志:随筆御寄稿・・・会報「H26年度/秋季号(補稿)」

経営支援機関による事業再生支援

MBA・IPO内部統制実務士 鈴木智保

 戦後の日本経済は、1990年代のバブル崩壊までは右肩上がりに成長し、バブル崩壊以降も過大投資と放漫経営の企業は淘汰されたものの、中小企業に与えた影響は限定的だった。

しかし、2000年代に入ると、ITの進化や少子高齢化などの社会構造の変化と長引く円高不況で、 本質的にビジネスモデルが時代遅れとなる企業が多くなり、2008年のリーマンショックを経てさらに状況は悪化した。

 そこで、政府は「中小企業金融円滑化法」を制定して、中小企業の資金繰りを緩和するため、金融機関に対し期限付きで返済条件の変更要請に応じる努力義務を課した。平成25年3月末に2度の延長の末に同法は期限切れになるが、その間、「リスケ企業」が少なくとも40万社とその予備軍30万社にまで膨れ上がってしまった。

 一方、中小企業を巡る経営課題が多様化・複雑化する中、中小企業支援を行う支援事業の担い手の多様化・活性化を図るため、平成24830日に「中小企業経営力強化支援法」が施行され、中小企業に対して専門性の高い支援事業を行う経営革新等支援機関を認定する制度が創設された。認定制度は、税務、金融及び企業財務に関する専門的知識や支援に係る実務経験を有する個人、法人、中小企業支援機関等を国が経営革新等支援機関として認定することにより、経営分析や事業計画策定に係る中小企業による支援機関に対する相談プロセスの円滑化を図るのが狙いで、平成26年10月3日時点で22,746機関が認定されている。日本経営調査士協会の会員の中にも、認定機関に登録されて個人、法人の方もおられるだろう。

 しかし、ここで留意すべきは、認定支援機関による支援対象となるのは、「自主再生支援のみ」であることだ。つまり、リスケ企業が、業績不振の原因が極めて深刻で、既に自主再生困難な状態にある場合には、自主再生スキームを実施することで、逆に取り返しのつかない事態を引き起こす可能性がある。既に手遅れになっているのに、無理やり経営改善計画を作って実行することで、傷口を広げ、さらに資金繰りがショートして、より経営者を火達磨にしてしまう恐れが生じる。政府もこの点に気付いてか、これまでの方針転換の動きがみられるようになった。平成26年2月には全銀協が中心となって策定された「経営者保証に関するガイドライン」が適用開始となり、「経営者の法的責任を伴う早期の事業再生」の必要性が叫ばれるようになった。

 平成26年3月19日付の日経新聞には金融庁のリスケ企業に対する返済猶予方針が「自主再生支援」から「転廃業促進」に大きく舵を切った旨の記事が掲載され、消費税増税にともない、「リスケ企業約40万社」に待ったなしの淘汰が始まるだろうことは想像に難くない。

 経営革新支援機関には、単に無駄な薬漬けを繰り返す、「内科型自主再生スキーム」をベースにした支援ではなく、金融機関における「財務格付に基づく債務者区分の推定」や存続可能事業と不採算事業の振り分けと別会社への事業譲渡といった、思い切った「外科型事業再生への取り組み」に期待したい。

以上

会員有志:随筆御寄稿・・・会報「H25年度/夏季号(補稿)」

4月に次男が5年勤めた会社から転職し、故郷の市役所に再就職した。850人ほどが受験し、採用されたのが50人、15倍ほどの競争率で、勉強嫌いの息子がよく合格したものだと思っている。もともと本人が故郷の地方公務員への転職を考えたのが一昨年の秋以降で、その動機に東日本大震災の発生が強く影響していたようだ。さらに驚いたことが、合格者の約50%が社会人経験者で、即戦力としての市役所の評価は高く、給与体系も経験を相応に反映したものとなっている。出身大学も東大はじめいわゆる一流大学卒が目立ち、元勤務先も東証一部上場企業等の大企業からの転職が多いとのことである。


次男の就活時期は7年前の10月からであった。私の勤務先の同僚から、息子さんの就活については、親が積極的に関与し、ES(エントリーシートのこと、直木賞『何者』で始めて知ったのであるが)の書き方、企業の選び方、面接の要領等をしっかり教え込んだ方がよいとのアドバイスを受けていた。しかし、私自身の場合は一切親に相談したこともなく、次男の大学も超とは言わないまでも一流の国立大学で、入学式の際にも当校の卒業生に就職の心配は要りませんとの説明もあり、本人からSOSがない限り放っておけばよいと思っていた。本人も簡単にいくと思っていたようで、メガバンク全てで内定が取れそうだと内心嘯いていたと後日語っていた。


ところが、実際は本人が思っていたような展開にはならなかった。この時期になって妻が痛く心配して、父親としてできる限りの支援をすべきであると口を出してきた。母親というものは息子のことになると気違いじみてきて、どうもいけない。 旦那の選挙の際には全く動かなかった奥さんが、旦那に代わり息子が二代目候補になったとたん、引きずる足をかばいながらもお願いに訪ねてくるなどその最たるものである。

 

妻の顔を立てながらとはいうものの私も心配になり、本人といろいろ話し合い、面接でのやり取りをヒヤリングしてアドバイスをしたのである。子供には幼少の時から「うそつきは泥棒の始まり」と教えてきた、どうも彼の話を聞いているとこれに行きあたった。すべて本音でしゃべり、本音で書いてしまっている。したがって、人事担当者から見れば「何を考えているかわからない」「志望動機も今一つ」「覇気がない、やる気がない」と受け止められてしまう。“うそ”を言わないまでも、この点を少し改めたらどうかと指摘した。


ただ、大学3年生で、採用担当者にテキパキものを言える方がおかしい、自然ではない、なぜか人為的であるとなぜ企業側は思わないのであろうか。過日の朝日新聞論壇時評で作家の高橋源一郎氏も「シューカツの中で、彼らは仮面をかぶることを強制される」と述べている。次男も4社程不合格になった後、自分なりに「就活とは」を理解したようだ。飛行機の近くで仕事がしたいという希望が叶って、ES:5,000枚企業の採用10人に残ることができた。それなのに転職である。


我々が就職した当時、市役所に入るということは・・・であった。したがって、妻は今更市役所なんてと不快感を示し、あなたは市役所に知人がいるのだから、不合格にしてもらうよう掛け合ってほしいと言うまでになった。ところがTVニュースや番組で、地方公務員の希望者が増大し、競争が激しくなっているという報道があり、最後は不合格だろうと思っていた矢先の合格通知が届いたのが昨年9月であった。ちょうどその頃、社外取締役に就いている会社の取引先招待旅行でシアトルへ行った折、マリナーズからヤンキースへ移籍したイチローのマリナーズ時代のユニフォームを次男のお土産に買ってきた。次男の決断とイチローの決断がほとんど同時であったことを末永く次男に覚えておいてほしいために。


さて、この社外取締役に就いている中小企業でも、4年ほど前から大卒の新卒を採用できるようになった。就職氷河期の賜物である。ただ、4年生の9月以降でないと応募者は現れない。すなわち、大・中堅企業に全て不合格となり、就職先が決まっていない学生がやっと訪ねて来るのである。そもそもオーナーの顧問的立場の役員であるのでこの種の仕事は手伝わないと決めていたが、面接に立ち会うだけでよいからということで関与する羽目になった。


他の役員は本来なら質問してはいけないようなことを平然と聞いているので、心配になり注意事項にまとめ渡したが、それでも答えなくてもよいと言いながら相変わらず質問している。どこの中小企業でもこんなものではないか。私は、ゼミ・クラブ活動・アルバイト・ボランティア活動・最近読んだ本・読んでいる新聞・趣味等々を聞くことにしているが、ゼミ、クラブ、アルバイトいずれもやったことのない学生がいたので、ついつい「君は何のために大学へ行ったのか?」と聞いてしまった。この時期当社を訪問している学生はいわゆる一流大学生ではないが、その中でも何か見るべきものがないかと探っているにもかかわらず。

こんな時、当時の文科大臣、あの田中真紀子大臣が事務局から推薦のあった大学の新設に反対意見を述べ、社会問題化していたが、久しぶりにいいこと言っていると思っていた。なぜなら、面接で会う学生が大学生らしい勉強をしていないことが多いからである。団塊の世代が大学入学する頃から、文科省が大学の新設を認めすぎ、その結果大学生が急増、就職困難者が増加、一方で少子化から生徒が集まらず学校運営がままならぬ大学も増えている。小学校から高校まで同級生で文部省のキャリアを勤め、現在第三の天下り先にいる友人に、田中大臣の言っていたことも悪くはないと意見を述べたところ、急に顔色が変わり、「何を言っているか、我々は大学の新設に厳しい態度で臨んできたのに、やれ自由化だ、構造改革だ、規制緩和だと言ってきたのは皆さん達ではないか。それを今になって文科省が悪いなんてよく言うか」と反論されてしまった。友人間の話であり、彼も強く出たのであるが、だれが悪いのかは別にして、現状分析では一致した。


 大学生は減少せず、採用は効率化や企業の日本離れで減少しており、当面は大学生の就職困難は、経済状況が少しばかり良くなっても続くであろう。
一方、街のクリーニング屋さん、花屋さん、畳屋さん、自転車屋さん、床屋さん、食堂等々は後継者がなく、閉店が目に余る。これでは市街地の活性化はままならない。
次男の転職から、「変な就活」、「就活はうそつきの始まり」、「大学生ではない大学生」、中小企業の大卒採用の実態、文部省の大学設置基準、最後は市街地の活性化まで繋がってしまった。こんなことでよいのでしょうか?       (吾唯)


参考図:<就職困難問題:平成22年度調査研究事業報告より>


介護老人福祉施設の業務委託
経営調査士 渡邊 敬二

○ はじめに
介護老人福祉施設(通称特別養護老人ホームと呼称される。以下「施設」という。)へ入所する高齢者は日常生活において食事や排泄などの身の回りの動作が加齢や病気により手や足の機能が麻痺し介助が必要な状態、いわゆる「介護状態」になった高齢者の中で、認知症による問題行動で「昼夜逆転といった行動が加わり、在宅での介護が困難となった高齢者等が入所する。
施設では介護士が食事や排泄といった介助を入所された高齢者3名に対して介護士1名という「3対1」の手厚い介護を行う。 介護士以外にも看護師、生活相談員あるいは施設管理者等多くの職員が施設利用者の生活を支える。 平成22年度の介護老人福祉施設等収支状況調査における民間施設の収支状況報告では人件費の比率を@63%として、増減率をA毎年度0.9ポイント上昇としている。 今後、職員の昇給昇格等のキャリアパスにより施設経営に占める人件件費への対応が急務となっている。
※ @A介護老人福祉施設等平成22年度収支状況調査 公益社団法人全国老人福祉施設協議会

○ 業務の委託
施設の経営では業務全般をプロパー職員で行い、昇格や昇給(キャリアパス)により雇用条件を整備し、高くした職員のモチベーションに支えられて経営することがベストである。 しかし人件費比率が60%を越え、毎年増加する人件費は施設経営にとって危惧すべき要因である。この対策として、人件費などのコストの削減と雇用に伴うリスクの回避、業務の効率化を目的として、受託事業者の持つ人材とノウハウの活用を容易にする業務委託が増加している。
平成22年度の調査では施設業務の内、給食業務や施設の掃除、事務処理など幅広い分野に業務委託を実施し、最も業務委託の効果が発揮できる給食業務では50%以上の施設が業務委託を実施している。
平成22年度介護老人福祉施設における業務委託の状況
委託内容/入所規模 入所定員数(単位:%)
全体 30人 31人〜50人 51人〜80人 81人〜100人 100人〜
給食業務 51.9 44.0 49.8 52.5 55.1 52.5
派遣職員(※1) 31.1 22.0 24.6 33.2 36.5 36.8
掃除業務 72.8 57.6 67.2 74.7 78.4 77.6
宿直業務 29.1 28.8 27.7 31.9 27.9 22.9
廃棄物処理 67.6 45.8 67.9 69.8 67.4 63.2
事務処理 34.2 27.1 38.0 33.0 29.9 36.3
資料:介護老人福祉施設等平成22年度収支状況等調査について(全国老人福祉施設協議会)
※1派遣社員にあっては看護業務以外の派遣社員の受け入れの比率である。

○ 業務委託の効果
 施設の業務委託の最大の効果は人件費等の「経費削減」にある。 この点について「介護老人福祉施設等平成22年度収支状況等調査について」では給食業務の委託の有無による人件費比率を「委託あり」を60.0%、「委託なし」を65.3%とし、委託による人件費の削減効果を入所定員数による規模別の平均を−5.3%とかなり高く評価している。
給食業務に関する人件費比率
委託内容/入所規模 入所定員数(単位:%)
全体 30人 31人〜50人 51人〜80人 81人〜100人 100人〜
@委託あり 60.0 60.2 60.0 60.2 59.4 60.1
A委託ない 65.3 66.4 65.9 65.0 64.8 64.5
比較(@−A) −5.3 −6.2 −5.9 −4.8 −5.4 −4.4
資料:介護老人福祉施設等平成22年度収支状況等調査について(全国老人福祉施設協議会)

○ 業務委託と経営
施設での業務委託が増加する理由として、施設介護サービス事業者への介護給付率の減少が上げられる。 団塊の世代が還暦を迎え、増加する要介護者の対策として、国は介護サービス事業者へ支払う介護保険の給付率を調整することで介護保険財政の硬直化を避ける対策を進めている。 このことから、介護保険事業者に支払われる介護給付率が減少し、介護業務に従事する職員の昇給が延伸されるなどの影響が発生している。  近年になり介護職員の給与の改善を目的として「介護職員処遇改善交付金」の制度を設けたが、実際には支給率も低く、毎年度上昇する人件費を補填するには程遠い状況である。

 しかし、業務委託には課題も多い、特に、最大の関門は職員の昇進や昇給といった職員のキャリアパスにある。 施設のプロパー職員は施設の基準によって勤務年数や勤務成績により将来的な昇給や昇格等のキャリアパスを俯瞰できるが、業務委託先の職員の昇格や昇給を判断するのは受託事業者であり、極端に給与ベースが業務の実態にそぐわないケースやプロパー職員と昇格や昇給の基準値が異なっているケース、あるいは委託先企業が中小零細企業で昇格や昇給の基準すらもない企業もある。 これが施設に勤務する委託先職員の「モチベーション」の低下や職場内の職員間の連携を欠くことになり、施設経営にとって多大な影響を与える。 このことから業務委託先の選定段階でキャリアパスを俎上にあげ、施設と同等か若しくは施設以上の条件を持つ企業の選定が必要である。
 また、業務委託は経営に強い影響を持つことから、キャリアパス以外にもデメリットは数多く、業務委託を検討する上ではメリットのみを注視せず、施設の実情に沿った検討が必要である。

業務委託に関するメリット・デメリット
分野 メリット デメリット
人事面 給与・厚生等総務関係の事務軽減 キャリアパスの課題・情報保護の課題
財政面 人件費の削減 委託業務の内容や委託経費算定の不透明
職員 採用や職員研修等の事務軽減 業務が見えなくなる、機動力の欠如、プロパー職員のモチベーションの低下
サービス 委託先のノウハウによるサービス向上 契約期間満了による業者交替の課題

○ 業務委託を検討する上で
施設の経営の効率化やワークシェリングに貢献し、施設職員のキャリアアップの財源として効果を発揮する業務委託は、新たな経営手法として取り入れるべきである。
そこで、施設の経営を助力し、新たな事業展開に向けた戦力となる業務委託を導入するにあたり、下記の点を再検討し異なる施設事業分野の事例を精査をして業務委託を検討することが必要である。

@ 経営ビジョンによる選択
 施設の経営には将来を展望するビジョンが不可欠である。業務委託では受託事業者をこのビジョンに取り込むことになるので、業者選定の経営のビジョンを受託事業者に説明し賛同する事業者を選択しなければならない。

A 経営計画との整合
 一端、業務委託を行えば、業務のノウハウも人材を施設から失うことになる「覆水盆に返らず」である。 今後、介護保険をめぐる情勢も大きく変化することも前提として、施設で培った業務のノウハウや人材を多用する他の介護事業への参画による多角化等を含めて検討した上、業務委託を検討することが必要である。

Bブラックボックス化
 業務委託が事業のノウハウや経費算定がブラックボックス化することがある。これにより委託先の独占化が進み契約期限満了による業者交換が困難となることが懸念される。  このことから委託する業務内容と経費算定を管理者自らが把握し、担当する幹部職員を常時配置すべきである。
 
C施設内職員のコンセンサス
  施設運営は介護職等の多くの職種により運営され、個々の業務が有機的に連携することが求められるので、業務委託の導入における施設職員のコンセンサスを得ることが必要である。
 
○ まとめ
施設は日常生活の場であることから生活に必要な多くの機能を有しており、ひとつの町や村に匹敵する機能を持っており、施設を経営することは「まちづくり」に類似する。
まちづくりには様々な手法が展開されるが、その一つが「協働」という方式である。
協働は市町村NPO法人等が目的意識を共通にし、各々の専門分野を駆使して「まちづくり」を行うことにある。 業務委託を用いた施設経営も「協働」による経営である。 

そのためには施設と受託事業者が共通するビジョンを持ち、施設は良好な事業環境を提供し、受託した会社がノウハウや人材を活用することで、施設の経営は安定度を増し、サービス向上を促すことができる。
また、他の業界では業務委託を下請けとして扱っているが、施設経営では受託事業者はパートナーである。 中には給食の業務委託企業が「地域で一番のうまい給食の提供」という気概を持つ企業もある。 その点を重視し施設管理者の直轄組織として、受託先事業者との間に平等な立場による協議組織を設置し、施設経営に受託事業者と「歯に衣着せぬ」議論をすることが必要である。 

参考資料 
:介護老人福祉施設等平成22年度収支状況調査について(全国老人福祉施設協議会)

平成24年度<論文公募:御寄稿>



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